矯正を始めて数ヶ月、並びが変わってきたのを鏡で確かめているうちに、今度は色のほうが気になり出す。せっかく整えるなら色も一緒に、と考えるのは自然な流れです。
そこで浮かぶのが「毎日つけているマウスピースに薬剤を入れれば、同時に済むのではないか」という発想です。ただし兼用できるかどうかより先に、確かめておきたいことがあります。いま自分の歯に、突起がいくつ付いているかです。
矯正用のアライナーとホワイトニング用のトレーは別のもの
どちらも透明で歯にかぶせる形をしていますが、この2つは目的の違う装置です。
それぞれが何のために作られているか
矯正で使うアライナーは、歯に力をかけて動かすために作られています。計画した位置へ歯を導くため、歯の面に密着する形と、力を伝えるための厚みや硬さが設定されています。
ホワイトニングで使うトレーは、薬剤を一定時間、歯の面に留めておくために作られています。柔らかい素材が使われることが多く、縁の位置や厚みも薬剤を保持する目的で決められます。
そして重要なのは装置の形以上に、中に入れる薬剤のほうです。 歯そのものを漂白する薬剤は、濃度と使用時間を歯科医師が管理する前提で扱われます。何をどれだけ、どのくらいの時間使うかが決まって初めて、トレーが役割を果たします。
兼用できるかは、製品と歯科医師の指示で決まる
製品によっては、矯正用の装置と併用することを想定して設計されたホワイトニング剤もあります。一方で、そうした前提のない製品もあります。「マウスピース矯正なら同時にできる」と一般化できる話ではありません。
同じ製品でも、歯ぐきの状態や虫歯の有無によっては勧められないことがあります。判断には口の中を見る必要があるため、自己判断で薬剤を入れることは避けてください。
相談の前に、自分で見ておけること
歯科医師に聞くまでの間にも、確かめられることはあります。自分のアライナーの縁が、歯と歯ぐきの境目でぴたりと終わっているか、それとも歯ぐきに少しかぶっているか。装置を外した状態と、はめた状態を鏡で見比べてみてください。
この観察だけで可否が決まるわけではありませんが、自分の装置がどういう形をしているかを把握したうえで相談すると、話が具体的に進みます。 札幌市内でも、矯正用の装置を使った方法を案内している医院とそうでない医院があります。
矯正中に色ムラが起きる理由
装置の話とは別に、矯正中ならではの事情があります。歯が動いている最中は、薬剤が届く面と届かない面が生まれやすいという点です。
突起が付いている部分
マウスピース矯正では、歯の表面に小さな突起(アタッチメント)が接着されていることがあります。役割についてはマウスピース矯正の失敗はなぜ起きる?原因の3つの所在と、開始前に打てる手に譲るとして、ここで問題になるのは薬剤が直接触れない面ができる点です。
突起の下には薬剤が接触しません。そのため、外したあとに周囲との色差が見える場合があります。ただし漂白の成分は歯の内部にも広がるため、差が出るとは限りません。程度には個人差があります。
歯が重なって隠れている部分
歯が重なっている場合、隣の歯に隠れている面にも薬剤は届きません。矯正が進めば重なりはほどけ、隠れていた面が表に出てきます。そのときに、これまで隠れていた部分だけが元の色のまま残ることがあります。
見落とされやすいのがこの点です。今の見た目で「均一に塗れそう」と判断しても、歯が動いたあとの見え方は変わります。
白い斑点がある場合
もうひとつ、矯正中に注意しておきたいものがあります。歯の表面に白く濁った斑点が見えることがあり、これは歯の表面のミネラルが溶け出しかけている状態です。
アライナーを1日20時間以上装着していると、その間は唾液が歯の面に触れにくくなります。唾液には歯の表面を修復する働きがあるため、覆われている時間が長いほどこの働きは受けにくくなります。歯みがきが行き届かない部分があると、斑点ができやすくなります。
この斑点がある状態でホワイトニングを行うと、周囲との差がかえって際立って見えることがあります。 色ムラを気にして相談するなら、斑点の有無も合わせて診てもらってください。
斑点は自分では気づきにくく、装置を外した直後の乾いた状態でよく見えます。歯みがきのあとに鏡で確認する習慣をつけておくと、変化に早く気づけます。見つかった場合は、漂白より先にその部分への対応を相談することになります。
どこに何個あるかで見る
判断は「あるか、ないか」ではなく、どこにいくつあるかで考えます。突起が笑ったときに見える前歯側に付いているのか、奥歯側だけなのか。重なりが正面から見える範囲に残っているのか、奥のほうなのか。
前者であれば差が目立つ場所に出ることになり、後者なら実際の見た目への影響は小さくなります。鏡で位置を確かめておくと、相談の場で状況を伝えやすくなります。
いま始めるか、重なりがほどけるまで待つか
矯正中に行う場合、選択は大きく2つに分かれます。
重なりがほどけるまで待つ
隠れている面がなくなれば、薬剤はその面にも届きます。重なりがほどけるのは治療の終盤ではなく前半に来ることが多いため、「矯正が全部終わるまで待つ」のとは別の話です。
自分の場合いつごろほどける見込みかは、治療計画のシミュレーションで確認できます。どの段階で重なりがなくなるかを聞いておくと、待つ期間の見当がつきます。動かす範囲によって進み方は変わります(ここでいう期間は、後戻りを防ぐ保定期間を除いた、歯を動かす期間です)。前歯を中心とした範囲で何が変わるのかはマウスピース矯正は前歯だけできる?適応ケースと費用・期間を解説にも書いています。
いま始める
期限がある場合は、色ムラを承知のうえで先に進めるという判断もありえます。突起が奥歯側だけであれば、実際の見た目への影響は限られます。
ただし時期には注意が必要です。漂白の直後は、歯の表面にレジンを接着する力が一時的に落ちるという報告があります。 マウスピース矯正では突起の接着や付け直しがあるため、その予定が近い時期は避けたほうがよいとされます。いつなら差し支えないかは治療計画によって変わるので、担当の歯科医師に確認してください。
歯科医師にどう切り出すか
治療中に別の希望を伝えるのは、気が引けるかもしれません。ただし黙って始めると、装着時間や突起の接着に影響が出たときに原因が分からなくなります。
切り出しにくければ、「矯正の邪魔をしたくないので先に聞きたいのですが」と前置きしてしまうのが早いです。そのうえで、いま突起が何本に付いているか、重なりがいつごろほどける計画かを聞きます。ここまでで、待つべきかどうかの見当がつきます。
続けて、いま使っている装置で薬剤を使えるのか、別のトレーを作ることになるのかを確認します。あわせて伝えておくと話が早いのが、いつまでに、どの程度を目指したいのかです。式や撮影など期限がある場合、取れる選択肢が変わります。
費用も聞いておきましょう。ホワイトニングを行っているかどうかは歯科医院によって異なるため、その医院で対応できるのか、専用のトレーを作る場合にいくらかかるのかまで確かめておくと、後から想定と違うことになりません。
※以下は当院が提供する矯正装置の料金であり、ホワイトニングの費用ではありません。歯列矯正は自由診療であり、公的医療保険の対象外です。当院で提供しているマウスピース型矯正装置による歯列矯正の費用は Lite 150,000円(税込)/ Basic 330,000円(税込)/ Pro 660,000円(税込)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。重度の歯周病や顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。ホワイトニングの実施可否・費用は取り扱いのある歯科医院にご確認ください。
マウスピース矯正とホワイトニングに関するよくある質問
Q. 市販のホワイトニング製品を矯正用の装置に入れてもいいですか?
入れないでください。そもそも国内で市販されている製品には、薬機法により歯を漂白する成分を配合できません。市販品は歯の表面についた着色を落とすもので、歯そのものを白くする薬剤とは種類が違います。歯を漂白する薬剤は歯科医院で扱われるものです。海外から個人で取り寄せた製品は濃度や安全性が確認できないため、装置に入れることは避けてください。
Q. ホワイトニングをすると矯正の進みに影響しますか?
直接歯の動きを変えるわけではありませんが、間接的に影響することがあります。ひとつはしみる症状が出た場合で、装着時間が落ちれば計画どおりに進まなくなります。もうひとつが突起の接着で、漂白の直後は接着の力が落ちるとの報告があります。いずれも時期の調整で避けられるため、事前に相談してください。
Q. 装置が着色することはありますか?
マウスピースは飲食物の色を吸収して変色することがあります。装着したまま色の濃い飲み物を口にすると起こりやすくなります。交換の周期が短ければ次の1枚でリセットされますが、周期が長い装置ほど色は残ります。いずれにしても、水以外を口にするときは外すのが基本です。
Q. 突起を外したあとに色の差が見えたらどうすればいいですか?
その時点であらためて相談してください。差が見える場合、突起があった部分に合わせて処置を行うことがあります。外す前から差が出る可能性を伝えておけば、外した直後に確認する流れを作っておけます。
まとめ
矯正用のアライナーとホワイトニング用のトレーは、目的の違う装置です。併用を想定して作られた薬剤もありますが、すべての製品に当てはまる話ではありません。判断には口の中を見る必要があるので、自己判断で薬剤を入れることは避けてください。
そして矯正中は、突起の下、重なって隠れている面、白い斑点のある部分に薬剤が届きにくくなります。これが色ムラの原因です。
確かめる順序は、装置より先に自分の歯です。 突起と重なりが「どこにいくつあるか」が分かれば、いま始めるのか、ほどけるまで待つのかは自分の中で決まります。そのうえで装置の相談をすると、一度の受診で話が進みます。