抜いたほうがいい、と言われた。保険はきく、とも言われた。それでも残るのは「では、いくらなのか」という問いです。
「保険がきく」という言葉は、費用の話としては半分しか答えていません。保険が使える診療の金額は、国が決めた点数で決まっています。同じ処置なら、どの医院でも同じ点数です。
そして親知らずの抜歯では、その点数が、生え方によって変わります。
保険診療の費用は、点数表のほうで決まっている
保険が使える診療には、診療報酬点数表という一覧があります。処置のひとつひとつに点数が割り当てられていて、1点は10円と決められています。
同じ処置に対する点数は、どの医院でも同じです。窓口で払う額は、その合計に自己負担の割合をかけたものになります。何割を負担するかは年齢や所得で決まる部分で、ここにも医院の裁量は入りません。
矯正のような自由診療では、価格を決めるのは医院の側です。だから医院によって違います。保険診療はそこが違っていて、価格の決め方が医院の外にあります。
親知らずの抜歯は、生え方で当たる区分が変わる
抜歯手術の点数は、抜く歯によって区分が分かれています。
- 乳歯:130点
- 前歯:160点
- 臼歯:270点
- 埋伏歯:1,080点
親知らずは奥歯なので、まっすぐ生えていれば「臼歯」の区分に入ります。270点です。
一方で、埋伏歯の1,080点には条件が付いています。点数表には「完全埋伏歯(骨性)又は水平埋伏智歯に限り算定する」と書かれています。
そして、この「埋伏歯」が何を指すかは、点数表と併せて出される通知(別添2 歯科診療報酬点数表に関する事項)で定められています。「骨性の完全埋伏歯又は歯冠部が3分の2以上の骨性埋伏である水平埋伏智歯をいう」とあります。
つまり横向きというだけでは足りず、歯の頭の3分の2以上が骨に埋まっていることが要ります。傾いていても頭の大半が出ている親知らずは、この区分には入りません。
同じ「親知らずを1本抜く」でも、270点と1,080点では4倍近い差があります。金額の見え方が説明によって違うのは、この区分の差も入っているからです。
加算にも、付く区分が決まっている
抜歯には難抜歯加算という項目があり、230点が加算されます。通知には、歯根が肥大している、骨と癒着している、歯根が曲がっているといった歯に対して、骨を開いたり歯根を分けたりした場合とあります。
なお、高血圧などの全身の状態から注意を要するというだけでは、この加算は算定できないとも書かれています。
ただしこの加算には「2又は3については」という限定が付いています。つまり前歯と臼歯の区分にだけ付くもので、埋伏歯の区分には付きません。
もうひとつ、抜歯と同時に行う歯槽骨の整形などの費用は所定点数に含まれるという記載もあります。ここは別料金として積み上がる部分ではありません。
「一部だけ出ている」場合は、どちらに入るか
点数表に置かれている区分は、乳歯・前歯・臼歯・埋伏歯の4つです。そして埋伏歯の区分は、先のとおり骨性の完全埋伏歯か、歯冠部の3分の2以上が骨に埋伏した水平埋伏智歯に限られます。
つまり、そこに届かない親知らず——傾いていても頭の大半が見えているようなもの——は、臼歯の区分に入ります。逆に、横向きで頭が少し出ていても、歯の頭の3分の2以上が骨に埋まっていれば埋伏歯の区分です。
そして、臼歯の区分に入ったほうについては、骨を開く、歯根を分けるといった処置が必要になれば、そこに難抜歯加算が加わります。
区分は4つで、そのあいだに中間の段は置かれていません。同じ「埋まりかけ」に見えても、どちらの区分に入るかで点数は変わります。
区分と加算を足すと
下あごの親知らずが、歯冠部の3分の2以上まで骨に埋まった水平埋伏智歯にあたる場合、抜歯手術の点数はこう積まれます。
埋伏歯の区分 1,080点 + 下あごの水平埋伏智歯にかかる加算 230点 = 1,310点
1点10円なので、13,100円。ここに自分の負担割合をかけた額が、抜歯手術の分にあたります。
一方、臼歯の区分に入る親知らずなら270点、2,700円です。骨を開くなどの処置が入って難抜歯加算が付いた場合でも、270点+230点=500点。同じ「親知らずを1本抜く」でも、抜歯手術の行だけでこれだけ離れます。
ここに挙げたのは抜歯手術の点数だけです。実際に窓口で払う額には、あとで見る初診料や撮影の点数も加わります。
2026年6月に、下あごの親知らずにかかる加算が上がった
埋伏歯の区分には、さらに加算があります。下あごの完全埋伏智歯(骨性)、または下あごの水平埋伏智歯の場合に、所定点数へ加算されるものです。
この加算は「下あご」に限られています。 上あごの親知らずは、条件に当たれば埋伏歯の区分そのものには入りますが、この加算は付きません。上下で同じように埋まっていても、加わる点数が違うということです。
そのうえで、この加算が130点から230点に引き上げられました。 令和8年度の診療報酬改定によるもので、施行は令和8年6月です。
改正の前と後を並べた歯科診療報酬点数表の新旧対照表で確かめると、J000 抜歯手術の区分と注のうち、改正されたのはこの注だけでした。臼歯の270点も、埋伏歯の1,080点も、難抜歯加算の230点も、改定前と同じ数字のまま置かれています。
つまり下あごの水平埋伏智歯や骨性の完全埋伏智歯については、2026年6月を境に、抜歯手術の点数が100点分上がっています。横向きでも3分の2に届かなければ臼歯の区分なので、この加算は付きません。
この引き上げは、厚生労働省の令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】で「臨床現場の実態等を踏まえ、評価を引き上げる」とされた項目のひとつです。根管の処置など、ほかの項目とあわせて挙げられています。
抜歯手術のほかに乗るもの
窓口で払う額には、抜歯手術のほかにも点数が加わります。
初めてかかる医院なら初診料が付きます。歯科初診料は272点。2回目以降は歯科再診料で59点です。この二つも2026年6月の改定で上がっていて、改定前はそれぞれ267点と58点でした。
生え方を確かめるための撮影も入ります。撮影については、撮影そのものの点数と、写真を診断する点数が別に置かれています。 さらに画像を電子で管理・保存した場合の加算もあり、三つに分かれています。
一方で、抜歯のときの浸潤麻酔は、抜歯手術の所定点数に含まれ、別には算定されません。 手術の通則に「手術の所定点数は、当該手術に当たって、表面麻酔、浸潤麻酔又は簡単な伝達麻酔を行った場合の費用を含む」とあります。
ただし、この「簡単な」には限定があります。下あごの奥に効かせる伝達麻酔(下顎孔に行うもの)は、ここに含まれず、42点が別に置かれています。 下の親知らずでは使われることのある方法です。
区分を決めているのは、生え方のほう
点数表は公開されていて、区分ごとの点数もそのまま読めます。それでも、自分の額が先に一つ出てくるわけではありません。 区分が決まらないと、どの行を見ればよいかが決まらないからです。
区分を決めているのは生え方で、その生え方は撮影で分かります。外から見て横向きでも、骨のなかにどれだけ入っているかまでは、写真の側に写る情報です。
そのうえで、加算や処置が入るかどうかは、その日の口のなかを診てからの話になります。難抜歯加算のように条件の付いたものは、条件に当たったときにだけ加わります。
なお、親知らずが矯正の計画に関わる場合の扱いは、親知らずがあると部分矯正はできないのかの側で触れています。
※上記は保険が使える診療についての説明です。当院で提供しているのは自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。対応できる範囲は検査を経た診断によります。重度の歯周病・顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。
親知らずの抜歯費用に関するよくある質問
Q. 「保険がきく」と言われました。金額は医院によって違いますか?
点数表で決められているので、処置が同じなら点数も同じです。ただし実際に行われる処置の組み合わせは人によって違うので、合計まで一致するとはかぎりません。
Q. 自分の親知らずがどの区分になるかは、いつ分かりますか?
区分は生え方で決まるので、撮影して形を確かめたうえでの話になります。骨のなかにどれだけ入っているか、横を向いているかどうかが、そこで見られる部分です。
Q. 2本抜く場合、費用は倍になりますか?
抜歯手術の点数は「1歯につき」と定められています。本数が増えれば、その分の点数が加わる形です。ただし2本が同じ区分に当たるとは限らず、上と下でも加算の付き方が違います。
Q. 上の親知らずと下の親知らずで、費用は違いますか?
抜歯手術の区分そのものは、上下で分かれていません。ただし、完全埋伏智歯(骨性)や水平埋伏智歯にかかる加算は「下あご」に限られています。 同じように埋まっていても、上あごの親知らずにはこの加算が付きません。
Q. 点数は自分でも調べられますか?
点数表は厚生労働省が公開しています。抜歯手術は、先に挙げた新旧対照表の「J000 抜歯手術(1歯につき)」の項にあり、区分ごとの点数と、加算の条件がそのまま書かれています。埋伏歯が何を指すかは、先に挙げた通知の同じ項に定義があります。
Q. 矯正のために抜く場合も、同じ扱いですか?
抜く目的が矯正にある場合、どう扱われるかは、この記事で見てきた生え方の区分だけでは決まりません。矯正に公的医療保険が届く範囲については、原則使えない理由と、例外が医学的な類型で区切られる仕組みにまとめています。
矯正の計画のなかでどの歯を抜くかという判断そのものは、足りない場所と、抜かずに用意できる量の上限が扱っています。
まとめ
保険が使える診療の金額は、点数表で決められています。1点は10円で、同じ処置なら点数はどの医院でも同じです。
親知らずの抜歯では、その点数が生え方で変わります。傾きも埋まりもなければ臼歯の区分で270点。骨性の完全埋伏歯か、歯冠部の3分の2以上が骨に埋伏した水平埋伏智歯に限り、埋伏歯の区分で1,080点です。難抜歯加算230点は前歯と臼歯の区分にだけ付き、埋伏歯には付きません。
下あごの完全埋伏智歯(骨性)または水平埋伏智歯にかかる加算は、2026年6月から130点が230点に変わりました。 新旧対照表では、抜歯手術の区分と注のうち改正されたのはこの注だけで、区分ごとの点数は据え置かれています。
どの区分に入るかは生え方で決まり、その生え方は撮影で分かります。そこまで決まれば、抜歯手術の点数は点数表で読めます。そこに何が足されるかは、その日に行われた処置によって決まります。