歯は重なっていないし、隙間も目立たない。歯並びについて人から何か言われた覚えもありません。それでも、自分の口元が前に出ているという感覚だけは、ずっと残っています。
この二つは、別々の話のように感じられます。歯が並んでいるかどうかは歯の話で、口元がどう見えるかは顔の話。そうやって別の棚に分けたまま、どちらに持って行けばいいのかが決まらない状態が続きます。
ただ、矯正歯科の学会は、治すべきかどうかを判定する手がかりとして「簡単な歯並びや咬み合わせのチェック」の項目を挙げています。そこに何が並んでいるかを見ると、この二つを分けていた前提のほうが動きます。
学会が挙げるチェックの項目に、横顔の口元が入っている
公益社団法人日本矯正歯科学会は、矯正歯科治療についてのページに、「治療の必要な不正咬合の判定基準」という質問への回答を置いています。治すべきかどうかを判定する手がかりとして、何を見るかが書かれている箇所です。
その回答は、「また、口元が出ているなど、歯に起因する顔の美醜も問題になることがあり、劣等感など精神的問題につながることもあります」と述べたうえで、「簡単な歯並びや咬み合わせのチェックには、以下のようなことが挙げられています」として10の項目を並べています。そのなかには、次の三つが含まれています。
「歯が重なっていたり、間に隙間はないか」
「横顔で唇がひどく出ていたり、引っ込んでいることはないか」
「上の前歯や下の前歯が前方に出ていないか、その逆はないか」
一つめは、多くの人が「歯並びが良い」と判断するときに見ているところです。二つめは、横顔で気になっているところを扱っています。 三つめは見る向きを指定せず、前歯が前後方向にどこにあるかを扱っています。治すべきかどうかを判定する手がかりとして、これらが同じ並びの中に置かれています。
ただし、ここには限定もついています。学会が「顔の美醜」に触れているのは歯に起因する範囲についてであり、書かれているのも「問題になることがあり」という言い方です。口元の見え方がすべてこの範囲に収まる、という意味ではありません。
口元を挙げているのは、この学会だけではありません。矯正歯科専門開業医の団体である公益社団法人日本臨床矯正歯科医会も、基本理念のなかで、めざす矯正歯科治療を「単に美容を目的にするのではなく」、よいかみ合わせ、きれいな歯並び、感じのよい口元、口の健康の増進、治療後の安定性を「トータルに獲得すること」だとしています。歯並びと口元が、並んで挙げられています。 ただしこれは治療で何を目指すかを述べた言葉であり、口元の悩みを治療の対象として定めた記述とは別のものです。
症例の説明でも、「歯ならび」の語が使われている
日本矯正歯科学会のページには、症例ごとの説明も置かれています。不正咬合そのものについては「歯がふぞろいだったり、上下のアゴの歯ならびがお互いにちゃんと噛み合わない状態」と説明しています。「歯がふぞろいだったり」という書き方のとおり、ここで挙がっているのはいくつかある状態のうちの一つです。
そのうえで「出っ歯(上顎前突)」をこう説明しています。
「上の前歯が強く前に傾斜していたり、上の歯ならび全体が前に出て噛んでいます。」
前に出ているという状態が、ここでは「歯ならび」の言葉で書かれています。「八重歯・乱ぐい歯(叢生)」の説明も「歯ならびがデコボコになっている状態を『乱ぐい』といいます」で、こちらも同じ語です。
二つが別の話のように感じられるのは、それぞれを違う向きから見ているからでもあります。左右にどう並んでいるかは正面から目に入り、口元が前に出ていることには横から気づきます。向きが違えば、受け取るときも別々の観察になります。
「歯並びは良い」と言うときに見ているのは、たいていデコボコの有無です。横から見て口元が前に出ていることも、同じくらい確かな観察です。どちらかを取り下げる必要はありません。
挙げられている項目の中では、二つは別々に並んでいる
団体が挙げている項目を並べると、この二つの位置関係が見えます。
日本矯正歯科学会は「矯正歯科が必要な『不正咬合』」という見出しのもとに、出っ歯(上顎前突)、受け口(反対咬合)、八重歯・乱ぐい歯(叢生)、開咬、手術が必要な顎変形症を挙げています。
日本臨床矯正歯科医会のほうは、不正咬合の種類と治療法というページで、上顎前突、下顎前突、叢生、開咬、過蓋咬合を挙げています。
二つの一覧は、そっくり同じではありません。前者の五つ目は顎変形症で、後者の五つ目は過蓋咬合です。日本矯正歯科学会は自ら「代表的な症例をご覧下さい」と書いたうえでこの五つを並べています。すべてを網羅した一つの正解表が示されているわけではありません。
それでも、どちらの一覧にも共通していることがあります。叢生と上顎前突が、別々の項目として並んでいることです。
項目が別々に立っているのは、それぞれが違う状態を指しているからです。デコボコがそろっているかという話と、前後方向にどこにあるかという話は、同じ一覧の中の、隣り合った別の欄に置かれています。
こうして別々に扱われる組み合わせは、ほかにもあります。噛み合わせのほうを並びと切り分けて見たマウスピース矯正で噛み合わせはどうなる?並びとは別の軸で見るも、そのひとつです。
「見かけ上」という言い方は、説明文の中に既に入っている
さきほど引いた日本矯正歯科学会の出っ歯の説明には、続きがあります。
「また下のアゴが小さかったり、後ろにあることで見かけ上、出っ歯にみえることもあります。」
「見かけ上」「みえることもあります」。見え方についての話が、専門の説明文の中にはじめから入っています。
ただし、この一文が指しているのは、下のアゴが小さい場合や、後ろにある場合です。見え方の話がすべてこれに当てはまるという意味ではありませんし、「こともあります」と書かれているとおり、そうした場合もある、という書き方にとどまっています。
それでも、「自分が気にしているのは見え方だけで、実体のないことなのではないか」という迷いに対しては、手がかりになります。
なお、横顔の評価によく出てくる線をどこに引くのかは、その線を引いている2点がどこにあるかが扱っています。
骨の側の話も一覧の中にあり、扱える範囲はそこから別に決まる
口元が前に出て見えることを調べていくと、骨格という言葉に行き当たります。そこで「骨の話なら、歯を動かす治療の範囲から外れるのだろう」と受け取って、そこで止まってしまうことがあります。
ただ、アゴに関わる状態は、団体の一覧の中に置かれています。日本矯正歯科学会は「受け口(反対咬合)」について、「上下の前歯の傾きに問題がある場合と下のアゴが大きすぎたり上のアゴが小さすぎることによる場合とがあります」と書いています。同じ状態でも、前歯の傾きによる場合と、アゴの大きさによる場合とがある、という書き方です。 骨という言葉が出てきた時点で、行き先がひとつに決まるとは書かれていません。
一方で、一覧に入っていることと、歯を動かす治療だけで扱えることは別です。学会の五つ目は「手術が必要な顎変形症」で、そこに置かれているのは外科手術を併用した一人の症例です。「『反対咬合を伴う顎変形症』と診断され、矯正治療のみでは、安定したかみ合わせにすることは非常に困難で」と書かれています。一覧はそこまで含んだ広さで作られている、ということになります。
歯を動かして変わる部分と、骨組みとして残る部分の境目は、矯正で顔のどこが変わるかにまとめています。
同じ項目でも、資料によって書かれていることが違う
同じ項目を扱っていても、二つの団体の資料は書かれている中身が違います。
日本矯正歯科学会のページは、それぞれの症例に状態の説明を付けています。「上の歯ならび全体が前に出て噛んでいます」も、「歯ならびがデコボコになっている状態」も、その説明文です。
一方、日本臨床矯正歯科医会の「不正咬合の種類と治療法」に並んでいるのは、それぞれの治療法の説明です。同じように五つの項目を挙げていても、それぞれの項目に状態を説明する文は付いていません。
状態がどう説明されるかは学会の側で読めますが、自分の場合に何がどこまで関わっているのかは、どちらの資料にも書かれていません。そこから先を扱っているのが、次の二本です。
口元が前に出て見える状態に矯正でどこまで対応できるのか、そのために場所をどう作るのかは、矯正で対応できる範囲と、抜歯が要るかの決まり方に書いています。また、関わっている部分の内訳によって扱う先そのものが変わることは、その方法が何に触れているのかで扱いました。そちらでは、内訳が分かるまで行き先は決まらない、という順序で整理しています。
※当院で提供しているのは自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。対応できる範囲は検査を経た診断によります。あごの骨そのものを動かす外科手術は、当院では取り扱っておりません。重度の歯周病・顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。
歯並びが良いのに口ゴボに見えることに関するよくある質問
Q. 歯科で「歯並びはきれい」と言われました。口元のことも相談していいのでしょうか?
相談できます。片方について良いと言われたことは、もう片方について何か言われたことにはなりません。歯の重なりや隙間について「きれい」と言われたのだとすれば、それは横顔の口元について何かを述べたものではないので、気になっている側はそのまま持って行って差し支えありません。
Q. 「上下顎前突」という言葉を見かけました。これも不正咬合の種類ですか?
今回確認した日本矯正歯科学会と日本臨床矯正歯科医会の一覧には、この語は項目として出てきませんでした。二団体の資料を見た範囲での話です。そもそも一覧の内訳は団体によって違っていて、すべてを網羅したものとして示されてもいないので、そこに載っていない呼び方があること自体は、ここまでの話と食い違いません。なお、分類の項目名として並んでいるかどうかとは別に、先に見た判定の項目のほうには、上の前歯についても下の前歯についても、前方に出ていないかが書かれています。
Q. デコボコがないのに口元が出て見えるのは、珍しい状態ですか?
どのくらいの人がそうなのかという割合は、今回確認した二団体の資料には示されていませんでした。ただ、先に見た判定の項目では、歯の重なりと前後の出方が別々に置かれているので、片方だけが気になるという受け取り方は、その並びの中に収まります。なお、学会はこれを「簡単な」チェックとして挙げています。見た目から見当をつけようとするとどこまで分かるのかは、写真で分かることと分からないことで別に扱っています。
Q. 「不正咬合」に当てはまると言われたら、治療しないといけないのでしょうか?
一覧に名前があることと、治療を受けるかどうかは別のことです。当院で行っているマウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療で、受けるかどうかはご本人が決めるものです。なお日本矯正歯科学会は、同じ回答の中で、日常生活において支障をきたしていると考えられる場合は治療の対象になるとして、矯正歯科の医療機関への相談を勧めています。
まとめ
横から見て口元が前に出ていることと、歯にデコボコがないこと。日本矯正歯科学会は、治すべきかどうかを判定する手がかりとして「簡単な歯並びや咬み合わせのチェック」の項目を挙げており、そこには「歯が重なっていたり、間に隙間はないか」と「横顔で唇がひどく出ていたり、引っ込んでいることはないか」が、どちらも並んでいます。学会が顔の見え方に触れているのは歯に起因する範囲についてで、「問題になることがあり」という書き方です。
団体が挙げている一覧のほうでは、叢生と上顎前突が別々の項目として並んでいます。一覧そのものは団体によって少しずつ違っていて、すべてを網羅した一つの表があるわけではありませんが、この二つが別の欄にあることは共通しています。
出っ歯の説明には「また下のアゴが小さかったり、後ろにあることで見かけ上、出っ歯にみえることもあります」という一文が添えられていて、下あごの位置による見え方も書き込まれています。アゴの骨に関わる状態も一覧の中にありますが、そこに入っていることと、歯を動かす治療だけで扱えることは別です。
歯並びを褒められた経験と、口元が気になっている実感は、どちらも手元に残したまま相談に持って行けます。