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表側矯正の「適応が広い」を、項目の名前に置き換える|マウスピースと比べた研究から

2つの医院で相談したら、片方は表側のワイヤーを前提に話が進み、もう片方はマウスピースでも対応できると言われた。どちらも丁寧だったのに、同じことを言っているようには聞こえなかった——という経験は珍しくありません。

表側矯正について調べると、たいてい「適応が広い」と書かれています。ただ、その一語からは、何がどこまで違うのかが出てきません。

マウスピースと比べた研究はあります。ただ結果は、一方が上という並び方をしていません。項目ごとに、差の向きが違っていました。

目次

表側矯正は、歯の表面に留め具を付けてワイヤーを通す装置

表側矯正は、歯の表側の面に留め具(ブラケット)を接着し、そこにワイヤーを通して歯を動かす方法です。ワイヤー矯正、ブラケット矯正とも呼ばれます。

装置は歯に接着されているので、治療のあいだ自分では外せません。ここが、着け外しをするマウスピースとの形のうえでの違いになります。

「適応が広い」は、どの項目のことなのかを言っていない

表側矯正の説明では、「幅広い症例に対応できる」「三次元的に細かく動かせる」といった書き方をよく見ます。

これは装置の仕組みとしては正しい書き方です。ただ、読む側にとってはそこから先が続きません。 三次元的に動かせるとして、では何が、どれだけ違うのか。多くの記事は、そこまでは踏み込んでいません。

このサイトでも、装置の個性は、その設計を実行するときの効き方に出るという手前の整理が先に立っています。本記事が扱うのは、その効き方の側です。

差の理由は、装置の作りに沿って説明されている

この点をめぐっては、マウスピースと比べた複数の研究を集めたレビューが出ています。Ke Y、Zhu Y、Zhu M「A comparison of treatment effectiveness between clear aligner and fixed appliance therapies」、BMC Oral Health 2019年・19巻24。8つの論文をまとめたもので、内訳はランダム化比較試験が2件、残りはコホート研究です。対象はマウスピース群353人、ワイヤー群353人でした。

このレビューは、いくつかの項目で装置ごとに差を見つけたうえで、なぜそこに差が出るのかというところまで踏み込んでいます。装置の作りの側から順に見ていきます。

上下の当たり方について。 ワイヤーは、0.5ミリ以内の精度でワイヤーを調整し、歯を沈めたり引き出したりできるとされています。一方でマウスピースは、歯を引き出す動きが難しいうえ、噛む面を覆っているために、上下の歯が噛み合って落ち着いていくのを妨げる。だから同じようには当たり方を作れなかった、という説明です。

歯列の幅と傾きについて。 ワイヤーには角のある断面のものがあり、これを使うと、歯冠を傾けるだけでなく、歯根の向きまで起こしながら並べたり広げたりできる、という説明です。

そして、取り外せるかどうか。 マウスピースは外せるので、治療を終えるところまでは使う人の側に依存することになり、狙った結果を保証しにくい、とレビューは述べています。

以上がワイヤー側の説明にあたります。同じ議論のなかには、その裏側も書かれています。

ワイヤーは、歯の抵抗中心よりも歯冠側・頬側に力をかけることになります。 そのため、並べていく過程で歯が傾き、前に倒れることがある。これがワイヤー側の機序に伴う部分です。

対してマウスピースは、1枚で1本または数本ずつ動かしていくため、この前傾を小さくできる可能性があるとされています。あわせて、歯を抜かない症例では、並べていく過程で下の前歯が前に倒れるのを抑える方向の管理が良好だったという報告も並んでいます(この報告では、両群に統計的な有意差は出ていません)。

つまり、同じ「歯を並べる」という作業でも、力のかけ方が違えば、得られるものと、ついてくるものの組み合わせが変わるという書かれ方になっています。

実際に差が出たのは、この項目だった

では、実際に測るとどうだったのか。

まず全体から見ます。治療後の評価スコア(OGS)を合わせたメタ解析では、両群に統計的な有意差はありませんでした(P = 0.05)。レビューは、どちらの装置も不正咬合の治療に有効だったと述べています。

ただしこれは、合計したスコアの話です。「大きな改善を達成した割合」という別の指標では、ワイヤー側が高かったと報告されています。もっともこの指標は、大きな改善をどう定義するかで結果が分かれており、2つの研究のうち1つでは有意差が出ていません。

そのうえで項目ごとに見ていくと、差は片側だけに出てはいませんでした。

差が報告された項目どちら側に出たか
大きな改善を達成した割合ワイヤー
上下の歯の当たり方(咬合接触)ワイヤー
歯の傾き(トルク)、とくに奥歯の内外の傾きワイヤー
歯列の横幅を広げることワイヤー
保定のあとの後戻りワイヤー(マウスピース群のほうが並びの後戻りが大きかった)
歯を1本、または数本ずつ区切って動かすことマウスピース
治療期間マウスピース(平均で6.31か月短い

「適応が広い」という言葉は、上の表でワイヤー側に並んだ5行に置き換えて読むことができます。大きな改善の達成率、当たり方、傾き、幅、後戻り——ここまでが、その形容の中身にあたります。

そして同時に、表の後半では逆を向いています。 期間の差は統計的に有意なもので、これも同じレビューの報告です。

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見ていたのは、ほとんどが歯を抜かない症例だった

上の表は、この8論文のうち、それぞれの項目を測った研究から出た差です。その範囲のほうにも、いくつか条件があります。

8論文のうち7論文が、歯を抜かない症例を対象にしていました。 対象者の平均年齢は15.5歳から35.2歳までの幅がありました。

不正咬合の種類については、3論文がClass Iを対象としており、残る5論文は分類の記載がありません。

表に「ワイヤー」と書いた歯列の横幅も、下位の結果は一方向にそろってはいません。上あご側を測った研究では、犬歯どうし・小臼歯どうしの幅と歯列弓の周長ではワイヤー側が有意に大きかった一方、大臼歯どうしの幅と歯列弓の深さは同等で、別の研究では、下あごの犬歯どうしの幅で、むしろマウスピース側が広がる傾向だったとされています。

治療期間の差についても、レビューは条件を明記しています。この差を出したメタ解析に入ったのは3つの研究で、そこに含まれた患者は全員が、歯を抜かない症例でした

そして、この記事を書くにあたって分かったことがあります。このレビューが含めた8論文のうち1件は、レビューが公開される8日前に撤回されていました。撤回の理由は、データと本文の大部分が他の文献から複製されていたことです。

その1件は、歯を抜く症例を扱った唯一の研究であり、治療後のスコアを比べたメタ解析に入った2件のうちの1件でもありました。上の表のうち、大きな改善の達成率・当たり方・傾きも、この論文を根拠の一つに含んでいます。

2019年1月に公開されたレビューの側が、8日前の撤回を知ることはできませんでした。ただ、いま読む側は知ったうえで扱うことになります。

時間の条件も付いている

もう一つ、レビューが自分で付けた条件があります。

マウスピースの技術は、材料、補助的な器具、設計のプログラムの面で進み続けていること。そして、近年に発表された研究のほうが、それ以前の研究よりも良い成績を報告していることです。

根拠の限界についても書かれています。含まれた8論文のうちランダム化比較試験は2件しかなく、そのためコホート研究も対象に含めたこと。研究どうしの異質性が高いため、メタ解析の結果は慎重に解釈すべきであること。そして、さらにランダム化比較試験が必要であること。

つまり、上の表に並べた差は、装置の性質として固定しているという書かれ方はしていません。2018年8月までに発表された研究を集めた時点では、こう出ていた、という記述です。

治療の長さそのものをどう見るかは、装置をつける期間と保定は、別々の目安として示されているで別に立てています。

※本記事で触れる歯列矯正は自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。参考として当院の費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。重度の歯周病・顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。

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表側矯正に関するよくある質問

Q. 2つの医院で違う装置を勧められました。どちらかが間違っているのですか?

このレビューが報告しているのは、項目ごとに差の向きが違うということです。治療後のスコアを合わせたメタ解析では有意差がなく、大きな改善の達成率・当たり方・傾き・幅・後戻りではワイヤー側に、区切った移動と治療期間ではマウスピース側に差が出ています。

どちらが上かという形の結論は、このレビューからは出ていません。レビューの結び方も、「臨床医は、治療を決めるときにこの2つの装置の特性を考慮すべきである」という書き方です。

くわえて、このレビューが測っているのは装置の効き方であって、何を目標に入れるかという手前の話は別にあります。同じ装置でも、上下の当たり方を目標に含めたかどうかで仕上がりは変わる、というのがそちらの整理です。

装置を決めたあとにも残る論点は、「これにする」と決めたあとに残る選択が引き取っています。

Q. 表に並んだ項目は、どれも同じ強さで確かめられているのですか?

いいえ。項目によって、根拠になっている研究の数と規模が違います。

上下の当たり方と歯の傾きは3つの研究に基づいていますが、そのうち1つは先に触れた撤回論文です。表が「ワイヤー優位」としている歯列の横幅は1つの研究(各群20人)保定後の後戻りも1つの研究(各群11人)です。表は差が出た向きを並べたもので、確からしさの順位づけではありません。

Q. この研究は、どんな歯並びの人を対象にしていますか?

8論文のうち7論文が、歯を抜かない症例でした。不正咬合の分類が書かれていない論文が5件あり、Class I を対象としたものが3件でした。

治療期間の差を出したメタ解析に入った患者は、全員が歯を抜かない症例でした。またこの8論文のうち1件は、レビューの公開直前に撤回されています。

まとめ

表側矯正は、歯の表側に留め具を接着し、ワイヤーを通して動かす装置です。

「適応が広い」という説明は、装置の仕組みとしては正しいものの、範囲を示す言葉にはなっていません。8論文を集めたレビューは、大きな改善の達成率、上下の当たり方、歯の傾き、歯列の横幅、保定後の後戻りでワイヤー側に差が出たと報告しています。ただし項目ごとに、根拠になっている研究の数は違います。

このレビューは、歯を1本、または数本ずつ区切って動かすことと、治療期間(平均6.31か月短い)ではマウスピース側に差が出たとも報告しています。そして治療後のスコアを合わせたメタ解析では、統計的な有意差がありませんでした。

この数字には範囲が付いています。8論文のうち7論文が非抜歯で、抜歯症例を扱った1件では期間の向きが逆になりました。レビュー自身も、マウスピースの技術は進み続けており、近年の研究ほど良い成績が報告されていると書いています。

そしてレビューの結びは、臨床医は、治療を決めるときにこの2つの装置の特性を考慮すべきである、という一文です。ここで並べたのは、その「特性」が置かれている場所の名前になります。

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