総額を先に示しているサービスをいくつか並べて見ていると、期間の見え方に差があることに気づきます。同じくらいの歯並びなのに、示されている月数が違う。
このとき動いている数字のひとつが、1枚のマウスピースを何日使うかです。1枚あたりの日数が決まれば、全体の進み方も決まります。
そしてこの日数は、患者の側で選ぶものではありません。
マウスピースは、1枚を使う日数が決まっている
矯正で使うマウスピースは、形をわずかずつ変えた装置を順番に使う仕組みです。1枚が担当する動きの量は小さく、それを積み重ねて歯を動かしていきます。
このとき、1枚を何日使うかがあらかじめ決められています。日数が来たら次の1枚に移り、また決められた日数を使う。この繰り返しで進みます。
設定は一通りではありません。研究で比較されているのは、7日・10日・14日という3つの間隔です。このうち14日が、従来からの標準的な設定にあたります。
つまり同じ枚数の計画でも、1枚あたりの日数が違えば、使い終わるまでの月数は変わります。並べたときに期間の見え方が違うのは、ここが効いている場合があります。
間隔を変えても、動きの正確さは大きく変わらなかった
短い間隔で進めると、歯の動きは粗くなるのか。ここは実際に比較されています。
80人を7日・10日・14日の3グループに無作為に割り付けた研究があります。ここでは計画した位置と実際の位置のずれを、2種類に分けて測っています。歯を平行に動かす直線的な移動と、傾ける・ねじるといった角度の移動です。臨床的に意味のある差の基準は、直線で0.5mm、角度で2.0°と置かれました。
結果として、どの間隔で進めた場合も、グループの中で見た直線的なずれは、上下いずれの顎でもこの基準を下回りました。歯を平行に動かす精度は、間隔にかかわらず臨床的に問題のない範囲に収まっていたということです。
6件の研究をまとめたシステマティックレビューも、同じ方向の結果を報告しています。9,076件から選ばれた6件のうち、無作為化比較試験は3件です。4件では従来の14日と短縮したプロトコルのあいだに統計的な差がなく、2件では14日のほうが良好でした。
ここで、この結果がどの程度確かなものかを添えておきます。このレビューは研究間のばらつきが大きく、統計的に統合することができませんでした。歯の移動効率についてのエビデンスの水準は、レビュー自身が very low(非常に低い) と評価しています。「差がないことが確かめられた」ではなく、「いまのところ差は見つかっていないが、判断の材料はまだ弱い」という段階です。
痛みについては、別の評価がされている
同じレビューのなかで、痛みの感じ方についてだけはエビデンスの水準が high(高い)と評価されています。移動効率が very low だったのとは対照的です。
報告されているのは1件の無作為化比較試験です。10日と14日を比べたところ、痛みの感じ方に統計的な差はなかったという結果でした。
⚠️ ここは条件を外さずに読む必要があります。比べられているのは10日と14日で、7日はこの比較に入っていません。また1件の研究にもとづく報告です。「間隔を詰めても痛みは変わらない」と一般化できる範囲ではありません。
測られているのは、計画どおりに動いたかどうか
先の80人の研究が比べているのは、治療前に組んだ計画上の位置と、実際に動いた位置の差です。歯並びが整ったかどうかではありません。ソフトが「ここまで動く」と示した場所に、実際の歯がどれだけ届いたかを測っています。
間隔の比較から言えるのは、この範囲についてです。
差が出たのは、特定の動きだった
一方で、差が出なかったわけではありません。
先の80人の研究では、3グループを比べたときに14日のグループが有意に正確だった動きがあります。それは奥歯の側に集まっていました。上の奥歯を歯ぐき側に沈める動き、歯の頭を後ろへ傾ける動き、頬の側へ傾ける動き。下の奥歯では、沈める動きと引き出す動きです。
ただしこの差も、臨床的に意味があるとされた基準は超えていません。 統計的には差が出たが、治療の結果を左右する大きさではなかった、という位置づけです。
挙がっているのは、いずれも奥歯(臼歯部)の動きです。前歯の側でどうだったかは、この研究の要約からは読み取れません。
先のレビューの結論も同じ形をしています。7日・10日・14日で移動効率に有意差はない。ただし一部の動きでは14日のほうが良好だった、と書かれています。
ここから見えるのは、間隔が効いてくるかどうかが動きの種類と結びついているということです。80人の研究も、奥歯の難しい動きを狙う場合には14日へ緩めることを検討してよいという形で結論を締めています。同じ設定でも、計画に何が入っているかによって意味が変わります。
自分の計画にどの動きが含まれるかは、検査をして計画を組んだ段階で決まります。歯並びの見た目が似ていても、そこは同じとは限りません。
角度の動きは、間隔と関係なくずれが残る
同じ研究は、間隔どうしの比較とは別に、もうひとつの結果を出しています。
グループの中で計画と実際を比べたとき、角度のずれはほぼすべてで臨床的に意味のある大きさ(2.0°超)でした。これは7日でも14日でも同じです。平行に動かす方向では基準を下回っていたのに、傾ける・ねじる方向では、どの間隔でもずれが残っていました。
角度の動きは、装置が苦手にしている方向だということです。そしてそれは、1枚あたりの日数を延ばせば解消するという性質のものではありませんでした。
ずれが積み重なったあと治療がどう進むかは、追加のマウスピースが作られるまでのほうに置いてあります。
これは自分で早められるものではない
ここまでの話には、読み違えると危ない方向があります。
7日と14日で大きな差が出ていないなら、自分で早めてもいいのではないか。そう受け取れる余地がありますが、間隔は計画の側で設定されているものです。何日で交換するかは、計画に含まれる動きを前提にして決められています。
比較研究が扱っているのは、割り当てられた間隔で最初から最後まで進めた場合です。14日の想定で始めた治療を、途中から早めた場合を調べたものではありません。
装置が予定どおり収まっていない状態で次へ進めば、そのずれを抱えたまま先へ進みます。日数が来ても浮きが残っている、きつさが引かないといったときは、次に進める前に医院へ伝えてください。
1日のうち何時間入れているかのほうは、外している時間が計画に効いてくる範囲が受け持ちます。
※歯列矯正は自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。当院の費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。歯の側面を削る処置を行った場合、削った部分は元に戻らず、一時的にしみることがあります。重度の歯周病や顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。
マウスピースの交換間隔に関するよくある質問
Q. 間隔が短いほど早く終わりますか?
同じ枚数を短い間隔で使い切れば、使い終わるまでの日数は短くなります。ただしそれは、その間隔で進めることを前提に計画が組まれている場合に限られます。ここで見ている正確さの面では、大きな差は確認されていません。エビデンスの水準は very low と評価されている段階です。そして何日で交換するかは計画の側で決まっているもので、自分で早めるものではありません。
Q. 予定の日数より長く使ってしまいました
数日ずれた程度なら、次の来院時に伝えれば間に合うことが多くあります。ただし長く空いた場合や、次の装置が入りにくくなっている場合は、次に進める前に医院へ連絡してください。入りにくさは、計画とのずれが出ているときの手がかりになります。
Q. 途中で間隔が変わる場合はありますか?
変わることがあります。動かしている部位や進み方に応じて、設定が見直されることがあります。変わったときは、その理由もあわせて説明されます。
まとめ
矯正で使うマウスピースは、1枚あたりの日数があらかじめ決められています。7日・10日・14日といった設定があり、比較研究では動きの正確さに大きな差は確認されていません。ただしエビデンスの水準は very low で、統計的に統合することもできていません。
差が報告されているのは、奥歯を沈めたり傾けたりする動きです。間隔が効いてくるかどうかは、計画にどの動きが入っているかと結びついています。
そして角度の方向のずれは、間隔を変えても残っていました。日数を延ばせば精度が上がるという単純な関係にはなっていません。
この設定は、計画に含まれているものです。 間隔がどう決まるかは、その計画にどの動きが入っているかとつながっています。自分の計画に何が入るかは、検査をして計画が組まれた段階で示されます。