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マウスピース矯正で出っ歯は治る?可否を分けるのは装置に何を足すか

オンライン会議の録画に映った自分の横顔。撮られた覚えのない角度から、前歯の出方だけが妙にはっきり見えてしまう瞬間があります。

治すなら目立たない方法がいい。そう思ってマウスピース矯正に行き着いても、話はすぐ「軽度か、重度か」に折り返してきます。自分がどちらなのか分からないまま、そこで止まる。

けれど可否を分けているのは、マウスピースという装置の性能ではありません。その装置に何を組み合わせるかです。ここが分かると、相談で返ってくる答えの読み方が変わります。

目次

出っ歯の「程度」は、情報源ごとに違う線で語られている

自分が軽度なのか重度なのか判断がつかない。これは無理もないことです。判定に使われている線そのものが、説明する人ごとに違う場所に引かれています。

同じ「重度」が別の物差しで使われている

出っ歯の程度は、オーバージェットという数値で表されます。上下の前歯を横から見たときの、水平方向の前後差です。

正常の範囲については、おおむね2〜3mmとする説明が多く見られます。ばらつくのはその先です。どこからを上顎前突の傾向ありとするか、どこからを重度とするか。この線は説明する側によって一致していません。同じ「重度の出っ歯」という言葉が、書き手ごとに違う地点を指している状態です。

自分の数値を知らないうちから、どの線に照らせばいいのかも定まっていない。判定できなくて当然です。

その線が測っているのは、治療がどれだけ必要かということ

もうひとつ押さえておきたいのが、これらの数値がもともと何のために作られたのかという点です。

出っ歯の程度を段階で示す指標に、IOTNというものがあります。限られた治療枠を誰から先に埋めるかを決めるために作られた指標で、突出量が大きいほど段階が上がります。重度の目安として挙げられる数値も、もとをたどればこの区切りです。

この指標が答えているのは治療をどれだけ優先すべきかであって、どの装置で届くかではありません。しかも同じ突出量でも、唇の状態など別の条件と組み合わせて段階が決まります。数値ひとつでは決まらないことが、指標の設計そのものに書き込まれています。

つまり自分の数値を知っても、そこからマウスピース矯正の可否は導けません。可否は別のところで決まっています。

マウスピース矯正は、マウスピースだけで歯を動かしているわけではない

透明な装置を段階的に付け替えていく治療、という説明を読むと、歯を動かす力はすべてその装置が出しているように見えます。実際には違います。突起を付けて力の向きを作る、ゴムで上下の位置関係に働きかける、歯の側面をわずかに削る、動かすときの支えを置く。こうした手段を組み合わせながら治療は進みます。

装置に得意な動きと苦手な動きがあること、苦手な部分を補助で補うこと。ここまでは計画どおりに動かない原因を扱った記事に書きました。見たいのはその先です。

補助を使うのは、個々の医院の工夫ではありません。治療法そのものの成り立ちです。効果を検証した査読付きのシステマティックレビュー(Rossini ら、*The Angle Orthodontist*、2015年)も、この治療をアライナー単独で成立するものとしては扱っていません。補助的な手段を組み合わせることで歯の動きの予測性を高めるもの、という整理です。

つまり補助は、うまくいかなかったときの手当てではありません。最初から治療の一部です。すると、問いの中身が変わります。「マウスピース1枚で足りるか」ではなく、「必要な補助を組めるか」。出っ歯が治るかどうかは、そちらで決まっていました。

出っ歯の治療には、進みやすい動きと補助が前提になる動きが混ざっている

同じレビューでは、動きの種類によって計画どおりに進む度合いが違うことも整理されています。出っ歯の治療に関わる部分を見ていきます。

その前に一つ切り分けておきます。前歯を下げる余地をどこから作るか(歯の側面を削る、奥歯を後ろへ動かす、抜歯する)は抜歯が要るかどうかの決まり方に置きました。ここで見るのは、作った余地へ実際に歯を動かす局面のほうです。

奥歯を後ろへ動かす動きは計画どおりに進みやすい

上の奥歯を後方へ移動させる動きは、マウスピース矯正で予測性が高いとされる動きにあたります。前歯を後ろに下げるための余地を、奥から作っていく場面で使われる動きです。

これは出っ歯の治療にとって小さくない話です。前歯を下げる余地の作り方のうち、少なくともひとつはマウスピース矯正が比較的得意とする領域に入っていることになります。

ただし、予測性が高いと確認されているのは1.5mm程度の移動についてです。必要な量がそれより大きくなれば、話はまた変わります。得意な動きにも、そのまま伸ばせる範囲には限りがあるということです。

前歯を根の向きごと下げる動きは補助を前提にする

一方、前歯を後ろへ倒すだけでなく、根の向きを保ったまま動かそうとする場面では、装置の力だけでは計画どおりに進みにくくなります。歯冠だけが傾いて根が追いつかない、という動き方になりやすいためです。

だからこの場面では、歯の表面に突起を付けて力の向きを作る方法や、上下にゴムをかける方法が組み合わされます。難しい動きだからできない、ではありません。難しい動きだから補助が入る。 順番が逆になっています。

だから答えは「治る/治らない」ではなく、計画の形で返ってくる

可否を一言で尋ねると、一言で返ってきます。けれど実際に決まっているのは、どの動きを、何を組み合わせて、どこまで進めるかという設計です。

医院によって答えが変わることがある理由

同じ歯並びでも、相談先によって説明が変わることがあります。診断そのものの違いもありますが、それだけではありません。同じ突出量に対して、どこまでの補助を前提に見積もるかが違うためです。

突起をどう設計するか、ゴムや固定源をどこまで使うか。これらを最初から計画に含めるかどうかで、返せる答えが変わります。札幌市内で相談しても、この前提の置き方には相談先ごとの幅があります。どちらが優れているという話ではなく、前提にしている道具立てが違うということです。

難しいという返答を受け取ったとします。それが装置の限界を指しているのか、その医院で組める範囲を指しているのか。聞かなければ区別がつきません。断り方には何通りかあり、どれなのかでその後の進み方も変わります。そこは「難しい」の中身を分けて読む側で扱っています。

ただし、何を足しても歯の移動だけでは届かない範囲はあります。あごの骨格そのものが関わっている場合がそれにあたります。だからこの問いは、組める医院を探し続ける話ではありません。自分の場合はどこまでが補助で届く範囲なのかを、検査で確定させる話です。

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受け取った計画で確かめること

検査を受けると、治療計画が示されます。ここまでの話を踏まえると、その計画のどこを見ればいいかが決まってきます。可否を聞き出すのではなく、返ってきた計画を自分で読み解く、という順序です。

マウスピース以外に何が入っているか

計画に含まれる処置のうち、マウスピース以外のものを確かめます。突起を付ける歯があるか、ゴムを使う場面があるか、歯を削る処置が入るか、別の装置を併用する期間があるか。

ここに何も入っていないのに大きく前歯を下げる計画になっている場合は、どうやって動かす想定なのかを聞いてみてください。逆に補助がいくつも入っていれば、それは断られたことではなく、届かせるための設計が組まれているということです。

補助が入ると、生活の側で何が変わるか

組み合わせる手段によって、治療中の過ごし方も変わります。ゴムを使う計画なら、自分でかけ外しする手間が毎日発生します。突起は治療のあいだ歯に付いたままで、写真や近い距離で気づかれることがあります。歯を削る処置を含む場合、削った部分は元に戻りません。動かす範囲が広がれば、通う回数も変わります。

目立たなさを理由にこの治療を選んだのなら、ここは始める前に見ておいたほうがいい部分です。

※歯を動かす期間の見込みは、後戻りを防ぐ保定期間を除いた期間を指します。

前歯をどこまで下げる計画になっているか

補助の内訳と並べて読みたいのが、到達点です。何で動かすかと、どこまで動かすか。この2つは必ずセットで見ます。

補助が少ない計画は、簡単なケースだからそうなっているとは限りません。到達点のほうが低く置かれている場合も、書面の上では同じように見えます。どこまで下がる想定なのかを聞いて、はじめて補助の量が読めます。逆に、到達点を確かめないまま補助の有無だけを眺めても、その計画は読めません。

※本記事で触れる歯列矯正は自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。参考として当院の費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。歯の側面を削る処置を行った場合、削った部分は元に戻らず、一時的にしみることがあります。重度の歯周病や顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。

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出っ歯とマウスピース矯正に関するよくある質問

Q. 相談したその場で「できます」と即答されました。信じていいのでしょうか?

その場で返ってくるのは、検査前の見立てです。どの動きにどの補助を組むかは、精密検査のデータが揃ってから決まります。即答が誤りというより、まだ計画になっていない段階だと考えてください。判断はそのあと出てくる計画の中身を見てからで間に合います。

Q. マウスピース矯正をしたら、逆に出っ歯になることはありますか?

歯を並べる場所が足りないまま前歯を並べようとすると、前歯が前へ傾く形で並んでしまう場合があります。これは装置の種類に固有の現象ではなく、必要な余地を確保せずに並べた場合に起こりうるものです。計画の段階で、前歯の傾きが治療前後でどう変わる想定なのかを確認しておくと、この不安は具体的に潰せます。

Q. アタッチメントやゴムが入ると、目立たないという利点はなくなりますか?

アタッチメントは歯の色に近い樹脂で作られます。装置そのものよりは目立ちにくいとされますが、光の当たり方や位置によっては見えることがあります。ゴムは使う場面が計画によって異なり、日中は外して過ごす設計もあります。どの歯に付くのか、いつ使うのかは計画で決まるため、気になる場合は事前に確認してください。

Q. ワイヤーを併用すると言われました。それはマウスピース矯正ではないのですか?

治療の一部にワイヤー装置を組み合わせる計画もあります。全期間を通してワイヤーで行う治療とは別のもので、特定の動きが必要な期間だけ併用するという設計です。どの期間にどちらを使うのか、そのあいだの見た目はどうなるのかを聞いておくと、判断材料が揃います。

Q. 抜歯をしたくない場合、その希望は計画に反映されますか?

希望として伝えることはできますし、伝えておいたほうが建設的です。ただし抜かない前提にすると、動かせる量の上限が変わります。抜かない計画にした場合に到達点がどう変わるのかまで説明を受けたうえで選べると、後から計画を組み直す事態を避けやすくなります。

まとめ

出っ歯がマウスピース矯正で治るかどうかは、突出量の数値だけでは決まりません。数値の線は情報源ごとに揃っておらず、そもそも治療の必要度を測るために作られたものだからです。

可否を左右しているのは、装置に何を組み合わせられるかのほうです。マウスピース矯正はアライナー単独で成り立つ治療ではなく、突起やゴム、削る処置、固定源を組み合わせて歯の動きを設計します。奥歯を後ろへ動かす場面のように進みやすい動きもあれば、前歯を根の向きごと動かす場面のように補助を前提とする動きもある。その配合が、その人の計画です。

だから、できるかどうかだけを尋ねても、返ってくる情報はそれ以上に増えません。検査を受けて計画を受け取れば、そこに書かれた補助の内訳が、そのまま自分の出っ歯に対する答えになっています。読み方さえ分かっていれば、その紙は自分で読めます。

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