口元の張り出しを何とかしたい。ただ、何をどこまでやれば変わるのかが分からない。自分でできることから試したいという気持ちと、それで足りるのかという迷いは、たいてい同時にあります。
やり方はいくつも見つかります。並べられても選べないのは、それぞれが触れている場所が違うからです。筋肉に働きかけているのか、歯に働きかけているのか、あごの骨に働きかけているのか。ここで仕分けると、期待できる範囲もおのずと決まります。
触れられる場所が、手段によって違う
口元の見え方は、ひとつの原因でできているわけではありません。何がどれだけ関わっているかは人によって違い、その内訳は検査で内訳を出すところから扱っています。
ここで見ていくのは原因ではなく、手段の側です。
筋肉と習慣に触れる方法
最初に目に入りやすいのが、自分でできる方法です。表情筋のトレーニング、口周りのマッサージ、舌を上あごにつける練習といったものが挙げられます。
歯が動くかどうかを決めるのは、力の強さではない
これらが働きかけるのは、筋肉の使い方です。歯や骨の位置そのものが、これで動くわけではありません。
ここで誤解されやすいのが理由です。「力が弱いから動かない」のではありません。歯の移動を決めるのは、同じ方向の力が1日のうちどれだけの時間、何ヶ月にわたってかかり続けるかです。矯正装置が1日20時間以上の装着を前提にしているのは、そのためです。
数分間の運動は、強さの問題ではなく持続していないため、歯の位置には結びつきません。
自分で歯を押し続けるのは勧められない
この理屈を知ると、「では長時間押し続ければいいのか」と考えたくなるかもしれません。これはやらないでください。
矯正で使う力は、方向も大きさも計算されたうえでかけられています。自己流で加えた力は方向が定まらず、歯や歯を支える組織に想定外の負担がかかる可能性があります。動かしたい方向に動くとも限りません。
成長期と成人では、癖の意味が変わる
一方で、癖の話がまったく無関係というわけでもありません。
口を開けたままの状態が続いている、舌が低い位置にあるといった状態は、歯に加わる力のバランスに関わることが知られています。安静にしているときに唇や舌が歯へかけている圧は、弱くても長時間続くためです。
ここで押さえたいのが、成長期と成人で意味が変わる点です。 成長期には骨の成長が続いており、その時期の癖は育ち方に関わりうるものとして扱われます。一方、成長が終わったあとに癖を改めても、すでに生じている歯や骨の位置が元に戻るわけではありません。
なお、癖の改善が矯正後の後戻りをどの程度抑えるかについては、研究の蓄積が十分とは言えない状態です。後戻りを防ぐ主たる手段は保定装置(リテーナー)です。 矯正の相談で癖の話が出るのは、力のバランスも治療計画の材料になるためだと考えてください。
口が閉じにくい背景に、別の要因があることもある
口が開いたままの状態が続いている場合、その背景に鼻の通りにくさがあることがあります。鼻で呼吸しにくければ、口は自然に開きます。この状態で「口を閉じる練習」だけを続けても、続けること自体が難しくなります。
心当たりがある場合は、耳鼻咽喉科で鼻の通りを診てもらうという道があります。歯科では判断できない領域なので、分けて考えてください。矯正の相談の際に鼻づまりが続いていることを伝えておくと、そちらの確認を勧められることもあります。
歯と、それを支える骨に触れる方法
この層に触れられるのが矯正です。口ゴボに対して歯科が扱う中心の領域になります。
ここで大事なのは、自力の方法と矯正は、技術や本気度の差ではなく、触れている対象そのものが違うという点です。だから両者は代替の関係になく、比べる対象ですらありません。片方をいくら続けても、もう片方の領域には届きません。
どこまで動かせるか、どうやって動かすかは検査と治療計画の話になります。その中身は抜歯が要るかの決まり方に譲ります。
なお、成長が終わったあとの矯正で触れられるのは、歯と歯を支える骨の一部までです(成長期には、あごの育ち方に働きかける装置もありますが、使える時期が限られます)。
あごの骨に触れる方法
あごの骨の位置そのものが要因になっている場合、この層に働きかけるのが外科的な治療です。全身麻酔での手術と入院を伴います。
順序としては、検査で歯の移動がどこまで届くかを確かめたうえで判断します。ただし骨格の要因が大きい場合は、最初の診断の段階で外科を含む計画が示されることもあります。
どの層にも触れない方法
このほかに、歯にも骨にも手をつけずに見え方を変える方法があります。歯科の診療範囲外なので、本記事では内容も適応も扱いません。
歯科の側から言えるのは、どの層に触れているのかという事実の確認までです。それが自分の求めている変化に足りるかどうかは、扱っている医療機関に直接確認してください。
層によって、かかる時間の桁が違う
費用と並んで判断材料になるのが時間です。ここも層によって桁が変わります。
筋肉と習慣の層は、取り組んでいる間だけ働きます。始めた日から効き、やめれば元の使い方に戻ります。終わりのある治療ではなく、続けるものだと考えてください。
歯とそれを支える骨の層は、月単位です。歯は少しずつしか動かないため、動かす量に応じて時間がかかります。そして装置を外した時点で終わりではなく、位置を保つための期間がそのあとに続きます。
あごの骨の層は、手術そのものは短期間でも、その前後に歯を動かす期間が入ります。全体では最も長くなります。
時間の桁が違うということは、途中でやり方を変えると、それまでの時間が積み上がらない場合があるということでもあります。自力の方法を長く続けてから矯正に移ったとき、その期間が矯正の期間を短くしてくれるわけではありません。順番を決めるときに、ここは意識しておく価値があります。
どの層を、誰が扱うのか
仕分けができたら、行き先も決まります。
筋肉と習慣の層。 日常の中で自分が取り組む部分ですが、癖の改善を指導として行うのは歯科です。自己流で始める前に、何を目標にするのかを聞いておくと迷いません。
歯と、それを支える骨の層。 矯正歯科が扱います。どこまで届くかの判断には検査が要ります。
あごの骨の層。 外科的な処置を行う医療機関で扱います。矯正歯科からの紹介という形になることが多い部分です。
鼻の通り。 耳鼻咽喉科です。口が閉じにくい状態が続いている場合の、歯科とは別の入口になります。
順番としては、どの層がどれだけ関わっているかが分からないうちは、行き先も決まりません。 内訳を知るには検査が要ります。
※歯列矯正は原則として自由診療であり、公的医療保険の対象外です(顎変形症など、国が定める一部の疾患に該当する場合を除きます)。当院で提供しているマウスピース型矯正装置による歯列矯正の費用は Lite 150,000円(税込)/ Basic 330,000円(税込)/ Pro 660,000円(税込)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。重度の歯周病や顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。通院回数は治療内容・個人の状態により異なります。
口ゴボの治し方に関するよくある質問
Q. トレーニングを続ければ、少しは変わりますか?
口元の緊張の取れ方や、唇を閉じたときの見え方が変わることはあります。ただしそれは筋肉の使い方が変わった結果で、歯や骨の位置が動いたわけではありません。変わったのが何なのかを区別しておくと、期待の置き方を間違えずに済みます。
Q. 「前歯が下がる」と書かれた自力の方法を見かけましたが、どう読めばいいですか?
変化として何が挙げられているかを見てください。「口元がすっきりする」「表情が引き締まる」であれば筋肉の話です。「前歯が下がる」「横顔のラインが変わる」は、歯や骨の位置が動く前提の主張になります。後者を自分でできる方法として掲げているものは、根拠を確かめる価値があります。なお歯科で行う口腔筋機能療法は、専門家の指導のもとで行う別のものです。
Q. 費用をかけずに済ませたいのですが、どこから手をつけるべきですか?
費用の見通しを立てるにも、まず内訳が要ります。歯の傾きが大きく占めていれば動かす範囲は小さく済むかもしれませんし、骨格の割合が大きければ話が変わります。検査を受けて内訳を知ることが、費用を判断するための最初の材料になります。
Q. 何を試しても変わらなかったのですが、諦めるしかないですか?
試した方法が、自分に関わっている層に触れていなかった可能性があります。筋肉に働きかける方法をいくら続けても、歯や骨の位置には届きません。変わらなかったことが、変えられないことを意味するとは限りません。
まとめ
口ゴボの治し方を並べても選べないのは、それぞれが違う層に触れているからです。筋肉と習慣、歯とそれを支える骨、あごの骨。期待できる範囲は、触れている場所で決まります。
自分でできる方法が働きかけるのは筋肉の使い方で、歯や骨の位置は動きません。理由は力が弱いからではなく、持続していないからです。だからといって自分で押し続けるのは、方向が定まらない力を加えることになるので避けてください。
試した方法が効かなかったとしても、それは変えられないという意味ではありません。触れている場所が違っただけかもしれません。 数を増やすより、その方法がどこに届いているのかを見てください。