健康な歯を抜きたくない。その気持ちから、歯を抜かずに治す非抜歯の矯正に惹かれている人は多いと思います。ただ調べていくと、「非抜歯で口元が出てしまった」「思ったより引っ込まなかった」という後悔の声にもぶつかります。心が動いていたぶん、この声は迷いを大きくします。
先に結論を置くと、こうした後悔の多くは、歯を抜かなかったこと自体から起きているのではありません。分かれ目は別のところ、必要な場所の量が、抜かずに作れる量に収まっていたかどうかにあります。
非抜歯の後悔は、多くが口元の側で起きている
非抜歯を選んで後悔した、という話を見ていくと、内容は一つの方向に寄っています。前歯の重なりは取れたけれど、口元が前に出た、あるいは思っていたほど引っ込まなかった、というものです。
歯並び自体はまっすぐになっている。それでも、横から見た口元の感じが想像と違う。抜きたくない気持ちを大事にしたはずが、別のところで引っかかりが残る、という形の後悔です。
気づくのが遅れやすいのも、この後悔の特徴です。治療中は正面から見た並びが整っていく手ごたえがあり、そちらに目が向きます。口元の前後の変化は横顔に出るので、正面の鏡では見えにくく、写真や人の指摘で後から気づくことがあります。並びの満足と、口元の引っかかりが、時間差でやってくる形です。
この後悔がなぜ口元に出るのかは、歯を抜かずに並びを整えるとき、場所をどうやって作るかを見ると分かってきます。抜くか抜かないかという入口の選択より、その先で歯がどちらへ動くかのほうに、原因があります。
抜かずに並べる場所は、広げるか前へ傾けるかで作る
歯が重なっているのは、並ぶための場所が足りていないからです。だから並びを整えるには、どこかから場所を作る必要があります。ここは、抜く場合も抜かない場合も同じです。
違うのは、その作り方です。歯を抜けば、抜いた歯の分の場所がまとまって空きます。抜かない場合は、その手が使えないので、別の方向から場所をひねり出します。歯が並ぶ列の幅を少し広げる、前歯を前へ傾ける、といった方向です。
ここで、前歯を前へ傾けるという動きに、後悔の芽があります。前へ傾ければ、その分だけ前歯は前に出ます。少しの傾きで足りるなら、口元の変化はわずかです。ですが、必要な場所が大きいほど、前へ出す量も増え、口元が前に出る方向へ動きます。抜かずに並べた結果として口元が出るのは、この仕組みによります。
場所の作り方には、ほかにも歯を削る方法や奥歯を後ろへ送る方法があり、それぞれ性質が違います。抜歯まで含めた場所の作り方の全体は、口ゴボは矯正で治る?対応できる範囲と、抜歯が要るかの決まり方に一覧があります。ここでは、抜かない選択が「前へ出す方向で場所を作る」ことにつながりやすい、という一点を押さえておきます。
作れる量には上限があり、超えると後悔に近づく
広げる方向にも、前へ傾ける方向にも、作れる場所には上限があります。歯を無理に外へ動かせば戻せない負担が出るため、いくらでも前へ出せるわけではありません。この上限が骨の状態や顎の奥の余地、歯の厚みで決まる仕組みは、抜くか抜かないかを分けている量の話がくわしく追っています。ここで見たいのは、その上限と必要な量の関係が、口元の後悔にどうつながるかです。
必要な場所が上限に収まっていれば、抜かずに並べても口元は大きく変わりません。抜かずに済んで、見た目も落ち着く。これは良い結果です。
問題は、必要な場所が上限を超えている場合です。このとき非抜歯で進めると、並びきらずに終わるか、上限のぎりぎりまで前へ出して口元が突出します。前歯の重なりは取れても、口元の見た目で後悔が残るのは、この状態です。
つまり後悔の分かれ目は、抜いたか抜かなかったかではありません。必要な場所の量が、抜かずに作れる上限に収まっていたかです。同じ非抜歯でも、収まっていた人は満足し、超えていた人が後悔する。分けているのは、選択の名前ではなく量です。
「抜きたくない」を先に決めると、順序が逆になる
抜きたくないという気持ちは、自然なものです。虫歯でもない歯を抜くことに抵抗があるのは当たり前で、否定されるものではありません。
引っかかるのは、その気持ちをどう使うかです。「抜かないでやってくれる医院」を先に探して、そこに決めるという使い方をすると、必要な量を確かめる前に治療の方針が固まってしまいます。
本来の順序はこうです。まず、自分の並びを整えるのに、どれだけの場所が要るかを検査で確かめる。その量が、抜かずに作れる上限に収まっているかを見る。収まっているなら非抜歯で進められるし、超えているなら抜歯も選択肢に入る。量が先にあって、抜く抜かないはその後についてきます。
「抜かない」を先に決めてしまうと、この確認が後回しになります。上限を超えているケースでも、非抜歯を約束したところで治療が始まり、前へ出す方向で押し込まれる。後悔に近づくのは、抜きたくない気持ちそのものではなく、その気持ちを量の確認より先に置いたときです。
順序が逆だと気づきにくいのは、どちらの入り方でも、治療が始まって歯は並んでいくからです。非抜歯で始めれば、前歯の重なりは実際に取れていきます。量が上限を超えていたかどうかは、口元の見え方という形で、後から表に出てきます。始まった時点では両者の違いが見えにくく、進んでから差が現れる。だから、始める前の量の確認が効いてきます。
これは、非抜歯を掲げる医院が悪い、という話ではありません。非抜歯で対応できるケースは実際にあり、それを得意とする医院もあります。確かめたいのは医院の姿勢というより、自分の必要な量が、その非抜歯で収まる範囲にあるかどうかです。
非抜歯は、量が収まるなら歯を残せる選択
ここまで後悔の話を続けてきましたが、非抜歯が悪い選択だという意味ではありません。むしろ、抜かずに済むならそのほうがよい場面は多くあります。
必要な場所が上限に収まるケースでは、非抜歯は歯を残せる選択です。健康な歯を減らさずに並びを整えられるなら、それに越したことはありません。後悔が語られやすいのは、上限を超えていたのに非抜歯で進めたケースであって、非抜歯という方法そのものではない、ということです。
言い換えると、非抜歯と抜歯は、どちらが優れているかで順位のつくものというより、必要な場所の量に対してどちらが合っているかという適応の違いです。自分の場合にどちらが合うのかは、量を確かめてはじめて見えてきます。
※本記事で触れる歯列矯正は自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。参考として当院の費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。歯を前へ動かす量が大きい場合、口元の見え方が変わることがあります。非抜歯で対応できる範囲かどうか、また抜歯を伴う治療の可否は、検査を経た診断によります。重度の歯周病・顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。
非抜歯矯正の後悔に関するよくある質問
Q. 非抜歯で始めましたが、口元が気になってきました。やり直せますか?
進み具合と、いまの歯の位置によります。途中であれば、計画を見直して動かす方向を調整できる場合があります。仕上がったあとでも、あらためて場所を作り直す治療は考えられますが、その際に抜歯を含む計画になることもあります。まずは、いまどこまで動いていて、どこが気になるのかを見てもらうところからになります。
Q. 「非抜歯でできます」と言われました。信じて大丈夫でしょうか?
医院を疑うかどうかより、その判断が何を根拠にしているかを確かめるほうが確実です。必要な場所の量を測ったうえで、それが抜かずに作れる範囲に収まっている、という説明であれば、根拠のある非抜歯です。どんな検査や所見にもとづく判断なのかを確かめておくと、自分の希望と実際の条件を突き合わせやすくなります。
Q. もともと出っ歯です。非抜歯だと悪化しませんか?
前歯がもともと前に出ている場合、非抜歯で前へ傾ける方向の動きが加わると、出方が強まることがあります。この場合は、非抜歯で作れる場所の量と、前に出したくない方向とが合いにくくなります。出っ歯で非抜歯がどこまで使えるかは、出っ歯だけ場所を作る手が一つ足りなくなる理由で踏み込んでいます。どこまで使えるかは個々に違うので、最終的には検査で見極める部分です。
Q. 抜きたくない気持ちは、伝えてもいいですか?
伝えて構いません。希望として共有しておくことは、計画を立てるうえで役に立ちます。そのうえで、必要な場所の量が非抜歯で収まるかどうかを一緒に確かめれば、希望と実際の条件を突き合わせた判断ができます。希望を伝えることと、量を確かめることは、両立します。
まとめ
非抜歯矯正の後悔は、多くが口元の側で起きています。前歯の重なりは取れても、口元が前に出た、引っ込まなかった、という形です。
その原因は、抜かなかったという選択そのものより、歯の動く方向にあります。抜かずに並べる場所を前へ傾ける方向で作ると、その分だけ前歯が前に出やすくなります。そして作れる量には上限があり、必要な量がそこを超えていると、非抜歯では口元に無理が出やすくなります。
だから、後悔を避けるために先に確かめたいのは、どれだけ場所が要るか、そしてそれが抜かずに収まる量かどうかです。抜く抜かないは、その答えに続いて決まります。抜きたくない気持ちは、そのまま医院探しの基準にするより、この量の確認に向けると、希望と条件がかみ合います。