しばらく間が空いたあとにリテーナーを入れたら、以前よりきつかった。少し力を入れたら入ったので、そのまま使っている。矯正を終えた人からよく出てくる話です。
きつくなる理由はいくつかありますが、多くを占めるのは歯のほうが動いたケースです。(装置が変形していることもあり、外から見て区別するのは難しい部分です)
リテーナーは動かした位置に歯を留めておく装置ですが、同時にもうひとつの働きをしています。入れたときの感触が、そのまま歯の位置を教えてくれる、という働きです。
リテーナーは、歯が動いていないことを毎日確かめている
リテーナーは、治療を終えた時点の歯並びの形に合わせて作られています。歯がその位置にとどまっていれば、形は合ったままです。位置が変われば、合わなくなります。
当たり前のようですが、これは毎日使うたびに確認が入っているのと同じです。装着に手間がかからないなら、歯は動いていない。引っかかるようになったなら、どこかが変わっている。受診の合間にも、入れた瞬間に情報が返ってきます。
後戻りのサインは、鏡でも見えます。前歯にわずかな段差、歯と歯のあいだの三角形の隙間。ただし鏡は、見ようと決めたときにしか見ません。入れたときの手応えのほうは、確かめるつもりがなくても毎日届きます。
歯を動かしたあとに保定が要る理由、リテーナーの種類ごとの違い、装着期間の考え方。このあたりは前歯だけの矯正を扱った記事にある保定の項にあります。そちらは装置を受け取るまでの話です。ここから先は、受け取ったあとの話になります。
すんなり入る、きつい、入らない
装着したときの感触は、いくつかの段階に分かれます。
すんなり入る場合、歯は作ったときの位置にとどまっています。装着時間を守れているあいだは、この状態が続きます。
きつい場合、歯が動きはじめているサインです(装置側の変形でも似た手応えになります)。装置の形と今の歯並びのあいだに、ずれが生まれている状態です。押し込めば入ることが多く、しばらくすると馴染んだように感じます。ここが分かれ目になります。
入らない場合、ずれが大きくなっています。無理に押し込む対象ではありません。この段階になると、装置を作り直しても同じ形では収まらないことがあります。今の歯並びに合わせて作るか、動いたぶんを戻してから作るかで、その後の進み方が変わります。
段階といっても、境目がはっきりしているわけではありません。前は指で軽く押せば入ったのに、今は両手で押している。そういう変化のほうが、実際には気づきやすいところです。
取り外さないタイプには、この合図がない
ここまでは、歯列を覆うマウスピース型の取り外し式を前提にしています。歯の裏側にワイヤーを接着しておくタイプの場合、入れたり外したりがないので、装着感という情報が手に入りません。ワイヤーと床を組み合わせたタイプも、適合の表れ方はこれとは別になります。
合っているかどうかは、別の形で表れます。接着していた部分が外れる、ワイヤーが浮いて舌に当たる。こうした変化に気づいたときが、確認のタイミングになります。
外れたまま気づかずに過ごすと、支えがない状態が続きます。端のほうだけ外れている場合、自分ではまず気づきません。取り外し式なら装着のたびに分かることが、固定式では見ようとしないと分からない。同じ保定でも、気づき方の設計が違います。 そのぶん、年1回程度でも歯科医院でチェックを受けておく意味が大きくなります。
間隔が空くほど、合図はまとめて来る
冒頭の「久しぶりに入れたらきつかった」が起きる理由も、ここにあります。
毎日入れているあいだは、変化があっても少しずつ届きます。昨日と今日の差は小さいので、気づかないまま過ぎることも多い。ところが装着の間隔が空くと、そのあいだに進んだぶんがまとめて手応えになります。
空いた期間に進んだぶんが、まとめて手応えになります。 間隔が空くほど気づく機会は減り、気づいたときには量が大きくなっている。装着時間が減っていく時期に、この組み合わせは起こりやすくなります。
きついと気づいたところから
ここが本記事でいちばん伝えたい部分です。
やってはいけないのは、力ずくで押し込むことです。強く押せば入ることはありますし、しばらくすれば圧迫感も薄れます。うまくいったように感じられるので、そのまま続けてしまいがちです。
けれど合わない形を無理に押し当てているあいだ、歯には設計時に想定していない向きや大きさの力がかかります。歯や歯ぐきに負担がかかるほか、装置そのものが壊れることもあります。
まず試されるのは、装着時間を戻すこと
一方で、きつさに気づいた時点ですぐ受診、とも限りません。空白が数日から1週間程度で、押し込まずに入るなら、装着時間を元に戻して数日みるのが最初に取られる対応です。装着していなかった期間に動いたぶんが戻り、手応えも元に近づくことがあります。
ただし、この自己対応が当てはまるのは短い空白の場合です。1か月以上あいているなら、入るかどうかにかかわらず一度診てもらってください。 その長さになると、手持ちの装置を入れ直すだけで元の位置に戻すのは難しくなります。
短い空白であっても、強い痛みがある、明らかに入らない、数日続けても手応えが変わらない。このいずれかなら、そこからは自分で押し進める段階ではありません。
痛みは、ずれの大きさを測っていない
痛みが出るかどうかは、力のかかり方や個人差にも左右されます。装置が入っている安心感があるぶん、気づくのが遅れることもあります。
早い段階で相談すれば、対応はまだ軽く済むことが多い部分です。作り直して装着時間を戻すだけで収まる場合もあります。
逆に、押し込んで使い続けた期間が長いほど、選べる手は減っていきます。ずれが広がれば、作り直しでは追いつかず、あらためて歯を動かす話になることもあります。気づいてから動くまでの時間が、そのまま対応の重さに効いてきます。
※歯列矯正は自由診療(公的医療保険の対象外)であり、歯の移動に伴うリスク・副作用があります。費用・治療期間・通院回数・主なリスクの詳細は、この記事の後半に記載しています。リテーナーの修理・再作製にかかる費用と期間は、状態や医院によって異なります。
割れた、なくしたときに効いてくるのは時間
リテーナーが使えなくなったとき、まず気になるのは作り直しの費用かもしれません。ただ、結果に効いてくるのは時間のほうです。
作り直しを待つあいだも、歯は動く
壊れ方によっては、修理や調整で済むこともあります。作り直しになる場合、型を取って出来上がるまでに数週間かかることがあります。その期間、歯を支えるものがありません。保定が必要な時期に空白ができます。
空白が短ければ、新しいリテーナーはほぼそのまま入ります。長引けば、出来上がったものが入らないこともあります。作り直しの依頼が遅れるほど、作り直した装置が合わなくなる。 だから、連絡は早いほど手が残ります。
代わりのものを自分で用意しない
使えないあいだ、以前の装置や別の目的の装置で代用しようと考える人がいますが、これは避けてください。合わないものを入れるのは、きついリテーナーを押し込むのと同じです。
空白の期間をどう過ごすかは、どれだけ動きやすい状態かによって指示が変わります。判断の材料は口の中にあるので、連絡した時点で聞くのが確実です。
連絡するときに手元にあるとよいもの
連絡が早いほど手が残る、という前提で言えば、最初の連絡の質も結果に効いてきます。
割れた場合は、破片も含めて残しておいてください。どこがどう壊れたかで、扱いの難しさや作り直しの範囲が変わることがあります。捨ててから連絡すると、口頭での説明に頼るしかなくなります。
なくした場合は、最後に使えていたのがいつ頃かを思い出しておくと話が早くなります。空白がどれだけ続いているかが、対応を決める材料になるためです。
※本記事で触れる歯列矯正は自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。参考として当院の費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。歯の側面を削る処置を行った場合、削った部分は元に戻らず、一時的にしみることがあります。重度の歯周病や顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。
リテーナーに関するよくある質問
Q. しばらくサボっていました。今から再開すれば戻りますか?
空白がどのくらい続いたかで、まず見当がつきます。数日から1週間程度で、押し込まずに入るなら、装着時間を戻して数日みてください。それで手応えが戻らない、強い痛みがある、明らかに入らない。このいずれかなら相談を。1か月以上あいている場合は、入るかどうかにかかわらず一度診てもらうほうが確実です。 最終的には今どれだけずれているかで対応が決まりますが、空白がそれだけ長いこと自体が、相談の理由になります。
Q. きついけれど痛くはありません。それでも相談すべきですか?
痛みの有無と、ずれの大きさは別のものです。痛みは力のかかり方や個人差にも左右されるので、痛くないことを根拠に大丈夫と判断するのは難しいところです。入れるときの手応えが以前と変わったかどうかのほうが、状態を反映しています。
Q. 作り直しは、治療を受けた医院でないとできませんか?
別の医院で対応できることもあります。ただし条件は医院によって違い、治療時の記録が必要になる場合もあります。引っ越しなどで通えなくなったときは、行く前に可否と必要なものを問い合わせておくと確実です。
Q. リテーナーが変形することはありますか?
熱に弱い素材のものは、熱湯や車内の高温で変形することがあります。ただ、合わなくなった原因が装置側なのか歯側なのかは、外から見て区別がつきにくい部分です。変形した装置をそのまま使うと、これも合わない形を押し当てることになるので、疑わしい場合は使用を止めて相談してください。
Q. 装着時間を減らしていく判断は、誰がしますか?
減らし方や、どの段階で切り替えるかは、経過を診ている歯科医師が判断します。自己判断で間隔を空けると、気づくのは合わなくなったあとになります。
まとめ
作ったときの形と、今の歯並び。この2つがずれた状態で無理に押し込むと、歯には想定されていない向きや大きさの力がかかります。歯や歯ぐきに負担が及び、装置が壊れることもあります。
ただし、きついと感じた時点で全部が手遅れというわけではありません。押し込まずに入る範囲なら、まず装着時間を戻して数日みる。それで手応えが戻らない、強い痛みがある、明らかに入らない。そこからが相談の段階です。
割れた、なくした場合も同じ時間軸で動きます。作り直しを待つあいだも歯は動くので、連絡が遅れるほど、出来上がったものが入りにくくなります。
入れたときの感触は、毎日得られる情報です。記録も道具も要りません。合わなくなったことに最初に気づけるのは、使っている本人です。