長い矯正がやっと終わって、きれいに並んだ。ほっとしたのもつかの間、今度はリテーナーを「食事と歯みがき以外はつけておいて」と言われる。矯正が終わったのに、また装置の生活かとうんざりしながら、「これ、いつまで続くんですか」と聞いても、返ってくるのは「しばらくは」くらいで、はっきりした年数は出てきません。
調べてみても、「夜だけでいい」「ずっと続ける」と説明に幅があって、結局いつまでなのかがつかめません。この「一つの年数で答えが出ない」ことには、理由があります。保定は、期限を数えて終える作業ではなく、装着を少しずつ軽くしながら続けていく工程だからです。
「いつまで」に一つの年数が出ないのはなぜか
リテーナーを使い始めると、つい「あと何年で外せるのか」と、ゴールまでの年数を数えたくなります。ところが、その一つの数字が返ってきません。
数えたくなるのは、矯正に区切りがあったからかもしれません。歯を動かす治療には「並び終える」というゴールがあり、そこに向かって進んできました。その感覚のまま、保定にも「つけ終える」ゴールがあるはずだと探してしまいます。ところが、動いた歯を保つという作業には、動かし終えるときのようなはっきりした終点がありません。ここが、期待とかみ合わないところです。
理由は、保定という工程の性質にあります。矯正は歯を動かして並びを整えますが、動かした歯には、元の位置のほうへ戻ろうとする性質が残ります。リテーナーは、その戻りを引きとめておくための装置です。そして、この戻ろうとする性質は、治療が終わっても残り続けます。だから、引きとめておく必要も、しばらくのあいだ続いていきます。ある日を境にぴたりと不要になる、という区切り方にはなじみにくいのです。
つまり「いつまで」の答えが一つの年数に定まらないのは、期限を切りにくい相手を引きとめ続けているからです。動かした歯が元へ戻ろうとする性質がなぜ長く続くのかは、矯正から10年後の後戻りは、歯が動き続ける生理と切り離せないで見ています。ここでは、その性質が続くために保定の区切りが一つに定まらない、というところを押さえておきます。
期間は「終える」より「減らしていく」で進む
区切りが一つに定まらないなら、保定はどう進むのか。ある日いっせいに外して終わり、という形はとりにくく、多くは装着を段階的に軽くしていく形で進みます。始めのうちは長い時間つけておき、並びが落ち着いてくるにつれて、つけている時間を少しずつ短くしていく。やがて日中は外して、眠るあいだだけつける形へと移っていきます。「夜だけでいい」と言われるのは、この段階まで来たということです。
なぜ、だんだん減らしていけるのでしょうか。動かしたばかりの歯は、まだ元の位置へ戻りやすい状態にあります。それが時間をかけて新しい位置になじんでいくと、戻ろうとする勢いもゆるんできます。だから、最初は長くつけて強めに引きとめておき、なじんできたぶんだけ、つける時間を短くしていける。減らしていけるのは、歯が落ち着いてくるからです。
この進み方には、かたちがあります。終日つける、いちばんきつい時期は、保定の初めのほうに寄っています。そこを越えると日中を外していき、最後は夜だけを長く続ける形へ。きつい時期は前半に集中し、後半はずっと軽い付き合いになっていく、という流れです。どのくらいの期間でどう移っていくかは、一人ひとりの落ち着き方によって変わります。
見方を変えると、保定は負担が増えていく工程ではありません。矯正のあいだ、装置は歯を動かすために働いていましたが、保定での役目は「動いた位置を保つ」ことに変わり、その装着時間もこれから短くなっていきます。進むほど軽くなっていく工程だと分かると、「また装置生活か」といううんざりからは、少し肩の力が抜けるはずです。
その先に「完全にやめる日」が来るのかは、はっきり区切れるとは限りません。多くの場合、やめどきは”夜だけを細く長く続ける”あたりに落ち着いていきます。
気をつけたいのは、この「夜だけ」の段階が、いちばん気持ちがゆるみやすいところだという点です。日中つけなくてよくなると、「もう治療は終わった」という感覚になって、夜のひと手間からも足が遠のきがちになります。ところが、細く長く続ける値打ちがあるのは、まさにこの夜だけの段階です。手間が軽くなったぶん、続けやすさのほうに目を向けておくと、この段階と長く付き合いやすくなります。
減らしていいかは、歯が落ち着いているかで決まる
減らしていく工程だと分かると、次に気になるのは「では、いつ減らしていいのか」です。ここでも年数で決めたくなりますが、実際に見られているのは歯の側の状態です。
「◯年経ったから夜だけにする」という時間の区切りより、「歯が動かずに落ち着いているから、つける時間を短くしても大丈夫そうだ」という状態の確認が先に立ちます。その落ち着きぐあいは、リテーナーの入り具合にあらわれます。すんなり入るか、少しきついか——そこに、いまが減らしていい状態かどうかのサインが出ています。その入り具合をどう読むかは、リテーナーがきついとき、歯の側で起きていることの側に書きました。
だから、減らすかどうかは自分だけで決めないほうが確かです。早く終日の装着から解放されたい気持ちがあっても、いまが減らしていい段階かは、歯の落ち着きぐあいを見て判断する部分だからです。
自己判断で先に減らすと、かえって遠回りになることがあります。まだ落ち着ききっていない段階で時間を短くすると、歯が少し動くことがあり、リテーナーが入りにくくなる。そうなると、また終日の装着に戻して動いたぶんを立て直すことになり、せっかく短くしたぶんを、いったん元に戻すことになります。急いで減らすより、状態を確かめながら段階を踏むほうが、結果として早く軽くなっていきます。経過を診てもらいながら、つける時間をどう短くしていくかを相談していくと、この遠回りを避けられます。
取り外し式と固定式で、「いつまで」の考え方が変わる
もう一つ知っておきたいのが、リテーナーには種類があって、「いつまで」の考え方もそれによって変わることです。
取り外しできるタイプは、ここまで見てきたように「つける時間を減らしていく」形で期間を考えます。一方、歯の裏側に細い装置を付けたままにする固定式は、自分では外せないので、”つける時間を減らす”という筋道にはなりません。付けたままにしておくのか、どこかで外すのか、という別の見方になります。
どちらの場合も、外すか減らすかは、いまの状態を見てもらってから決める、という点は変わりません。
※本記事で触れる歯列矯正は自由診療(マウスピース型矯正装置による歯列矯正)であり、公的医療保険の対象外です。参考として当院の費用と治療期間の目安は Lite 150,000円(税込)・約2ヶ月(上下前歯12本・マウスピース各7枚以内が対象)/ Basic 330,000円(税込)・約3ヶ月(上下前歯12本が対象)/ Pro 660,000円(税込)・約6ヶ月(上下24本が対象)/ 全歯を対象とするプラン 880,000円(税込)です。全歯を対象とするプランの治療期間は、動かす範囲が広いため個々の状態により異なります。期間はいずれも歯を動かす矯正期間の目安であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。保定に用いる装置の種類や装着の進め方、保定期間の長さは、個々の状態や診断により異なります。通院回数は最低1回で、治療内容・個人の状態により異なります。安心保証制度とワイヤー補償が付帯するのは Basic・Pro のみです。歯の移動に伴い、歯の痛み・歯根吸収・歯ぐきの退縮・後戻りなどのリスクが生じる場合があります。重度の歯周病・顎関節症などがある方は治療をお受けいただけない場合があります。
リテーナーのやめどきに関するよくある質問
Q. 夜だけにしていいのは、いつからですか?
経った年数ではなく、歯が落ち着いてきたかどうかが目安になります。その落ち着きは、装置がすんなり入るかどうかに出ます。カレンダーで決めるより、そこを見てもらってから短くするほうが安全です。早く楽になりたくても、ひと呼吸おいて確かめてから進めると安心です。
Q. 完全にやめられますか?
多くの方は、最後は夜だけを続ける形に落ち着いていきます。まったくつけなくてよくなる人もいれば、夜だけを長く続ける人もいて、そこは歯の落ち着き方しだいです。ゼロにできるかどうかも含めて、経過を診てもらいながら決めていく部分になります。
Q. 1日つけ忘れたら、戻ってしまいますか?
一度うっかり外した日があったくらいで、それだけで全部が元に戻ってしまう、と身構えなくて大丈夫です。ただ、つけない日が続くと、次につけたときに入りにくくなることがあります。その入りにくさは、歯が少し動いたサインです。しばらく空いて入りが気になるときは、自分で判断せず、早めに相談するとよいでしょう。
まとめ
リテーナーを「いつまで」と年数で調べても一つの答えが出ないのは、保定が、歯を固定して終える作業ではなく、動いた歯が新しい位置になじむのを支えながら、軽くして続けていく工程だからです。だから期間は、終わりの一点を待つより、装着をどう軽くしていくかで見るほうが、実際の進み方に合っています。
減らしていく途中で夜だけになり、やめどきも多くは夜だけを細く長く続ける形に落ち着いていきます。そして、減らしていいかどうかは、経過した年数より、歯の落ち着きぐあいで決まります。そこは自分だけで決めずに、いまがどの段階かを見てもらいながら、つける時間を軽くしていけば大丈夫です。矯正で並んだ歯を保つ工程は、進むほど軽くなっていくものだと知っておくと、その先の付き合い方も見えてきます。